山梨県甲斐市は敷島,竜王,双葉の3町が合併して出来た新しい市である.
甲府市がかっての県庁所在地の勢いを失い,中心街の活性化の決め手もなく
もがいているのに対してつい最近県下第二の規模を誇るショッピング・センター
が開設されるなど,活気ある新興市として勢いを増しているかに見える.しかし,
僕が工房を構えている場所からの光景は決して明るいばかりではない.
甲斐市は北に茅岳を背負う緩やかな丘陵地帯と盆地にまたがる緑豊かな市
であり,工房が位置する松林から50mほど下りると盆地一帯を見下ろすことが
できる場所に出る.富士,白根3山,甲斐駒を望むこの地に県立総合農業試験場
生物工学部 なる施設が看板をかかげていた.どのような研究をしているのか
他所からは推し量ることができなかったが,荒れた構内には人影もまばらであった
ことは確かである.それでも帰宅途中の山道から街燈の白い灯が見えたりしたので,
自分の工房の運営を棚にあげて乏しい予算で大変なんだろうと思ったりしてきた.
それがいつからか正確な日時は覚えていないが照明がぱったり消えて,突然
大規模な道路工事が始まったのには驚いた.ダンプがひっきりなしに行き来し,
重機がうずたかく土砂をつみあげていく.工事表示には農業道路の建設と
書いてあるが詳細は地元の住人に聞いてもあまり定かではない.確実に言える
ことはこの建物が廃棄され廃墟の道をたどっているということである.

そもそもこの建物は蚕業試験場として県内の生糸生産を支える重要な施設
だった歴史がある.99年度版の昭文社の地図を見ると付図のようにはっきりと
その名称が記入されている.それが試験研究施設の統廃合の流れの中で
総合農業試験場に吸収されたのであろう.HPを見てもその辺の事情が
書いてないので正確な経緯をご存知の方は教えていただきたく思う.

蚕業試験場の閉鎖は山梨県に関して言えば地元生糸生産量の壊滅的数値
と関係がある.県内養蚕業の歴史に詳しいわけではないが,養蚕を生業とした
実家のかすかな記憶が経済状況が変化した必然と切り捨てることに抵抗して
いるのかもしれない.センチメンタルな思い入れを含む自分のわずかな経験が
何ほどの意味があるのか分からないが,一つの産業の衰退は今の産業の問題
でもある.今日繁栄している産業の明日は約束されたものであるとは言い切れ
無いのだ.


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